So-net無料ブログ作成

「遊星王子 恐怖の宇宙船」(1959年公開)感想 [映画/ドキュメンタリー]

「少年探偵団」で慣れたせいか、1959年公開のB級日本SF「遊星王子」劇場版2作も楽しんで観ることができた。

このシリーズのメインライターである伊上勝氏は、いくつかの自分で考えたテンプレにキャラを乗せて書いていくスタイルだ。場面転換が早く、スピード感重視のために場面ごとの繋がりなどは細かく考慮されていない。

人知れず活躍する日陰者のヒーロー、同じように誰にも察知されずに暗躍する悪者、独裁者とその指令を受ける中堅幹部、組織の瓦解と新しい組織の誕生などのフォーマットは、忍者ものを書いていた時代に確立した手法だという。「仮面の忍者 赤影」などはまさにこのフォーマットのまんまだ。

本作「遊星王子」でデビューし、以来ずっと売れっ子脚本家だった伊上勝氏は、「仮面ライダー」もしくは(未確認であるが)「妖術武芸帳」でちょっとした変化が起きている。それまでとにかく勢い重視でどんどん場面転換していく作風だったものが、人格描写や舞台設定で極力荒唐無稽な表現を使わないように心掛けるようになった。

それは敵の名前などによく現れている。「遊星王子」の悪役「まぼろし大使」のようなものから「ショッカー」になった程度の変化なのだが、これは手塚治虫と石ノ森章太郎との差異ほどの変化があるのだ。漫画の世界に劇画ブームが起きて、子供向け漫画の世界にリアリティーが持ち込まれるようになり、新しい時代の旗手として石ノ森章太郎が登場したとき、手塚治虫や横山光輝は一時的に過去の人になりかけた時期がある。

それはお茶の間を舞台にした4コマ漫画の世界に映画的手法を持ち込んだ手塚治虫ほどのインパクトがあり、それまでの主流が一気に古臭くなるような変化であり、漫画表現の重要な変化であった。漫画の世界に起きたことが石ノ森章太郎が特撮作品の原作を大量執筆することによって子供向けテレビ業界にも持ち込まれた。その変化の煽りを食らって、伊上勝氏の作風はちょっとだけ変化した。

その変化によって伊上テンプレの中の子供たちの配置が換わっていった。それまでの伊上勝作品では子供たちが大人の近くにいて重要な役割を負うことが多かったが、子供が主人公になることが劇画ブームで出来なくなり、それでも氏は「少年仮面ライダー隊」のような形で子供を主役の近くに配置するものの徐々にやりにくくなり、子供たちは正義を守る積極的立場から平和を願う消極的立場へと身の置き所を変えた。

伊上勝氏の代表作のひとつ「ジャイアントロボ」のような少年主人公に再チャレンジした作品が「大鉄人17」だ。これはたしか氏にとって久々の少年主人公の作品だったはず。「大鉄人17」のころはまだ小学生だったので何もわからず視聴していたが、後年SF特撮ファンのサークルに入ったときに、先輩から「ジャイアントロボ」と「大鉄人17」の関係を聞き、伊上勝氏の名前を覚え、少年主人公が戦争体験者にとってどれほど重要なのか考えるきっかけになった。

伊上勝氏は自身が幼少期に体験した紙芝居や忍者もの、そして少年主人公への憧憬などを秘めながら特撮作品を書き続けていった。アニメにも主に助っ人としていくつか参加している。「勇者ライディーン」では富野由悠季監督と組んでいる。監督が下ろされてからは書いていないようだ。

彼の作品には独特のテンプレがあり、人物配置もどれも同じで大きな特色がある。このスタイルは昭和のアニメ・特撮に多大な影響を与え、アニメ脚本家によって成立していったラノベの原型にも彼のテンプレが色濃く反映している。いまの作風とはまったく違うが、テンプレの上に同じような人物配置をして同じような作品に作り上げていくところなどは何も変わっていない。

また、その作風があまりに定着したために作品自体に独特の昭和の香りがするのも特徴だ。「遊星王子」を視聴したオレが「何か知ってる雰囲気だな」と察知して脚本家の名前を調べるくらいに特徴的なのだ。

時代が変わって平成となったとき、何か新しい変化を起こさなきゃいけないという強迫観念のようなものが業界に蔓延してくると、とにかく伊上テンプレからの脱却はかなり強く意識された。昭和の時代とは違うことをしなきゃいけないとなったときに、昭和特撮に多大な影響を与えた伊上勝氏はまとめて葬り去られた。氏の代表作である「仮面ライダー」も、「仮面ライダーゼクロス」と「仮面ライダーBLACK」の間には大きな断絶があり、さらに「仮面ライダークウガ」との間にも大きな断絶がある。しかし氏は最後まで昭和仮面ライダーのテンプレに沿った短編を書いていたようだ。

平成仮面ライダーシリーズに大きな足跡を残した脚本家に井上敏樹氏がいるが、彼は伊上勝氏の実子である。父が昭和仮面ライダーの基礎を作り、息子が平成仮面ライダーの基礎を作ったという珍しい現象なのだが、息子の平成シリーズには父の影響はまったくない。伊上勝氏がかなり早く引退されているので、父親とは違う人の門下から仮面ライダーに関わるようになったはずだ。

2016年公開の映画「仮面ライダー1号」も井上敏樹氏の脚本だが、個人的には父親の仕事を回顧するというか、息子から歩み寄ったような作品で、フォーマットはまるっきり違う。

「遊星王子」は、そんな昭和特撮脚本の巨人のひとりのデビュー作である。



コメント(0) 
共通テーマ:アニメ

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。